アスベスト工事とは? オフィス移転時に確認したい法規定、必要な資格、手続きを分かりやすく解説
オフィス移転や事務所移転では、原状回復工事や内装改修が発生します。その際に見落とされやすいのが、アスベスト(石綿)への対応です。アスベストは過去に多くの建物で使用されており、現在は厳しい法規制の対象となっています。
知らずに工事を進めた場合、健康被害のリスクだけではなく、行政指導や工事停止といった実務上の影響が生じる可能性もあります。
本記事では、オフィス移転時に事業者が押さえておきたいアスベスト工事の基礎知識や法規定、必要な資格や手続きを分かりやすく解説します。
目次
- アスベストとは?
- オフィス移転時のアスベスト工事の問題
- 事務所内でアスベストが使用されている主な場所
- 工事の際に押さえておきたいアスベストに関する法律
- 事前調査と有資格者の義務
- 調査結果の報告義務
- アスベスト工事のレベル分類と作業基準
- レベル1(発じん性が著しく高い)
- レベル2(発じん性が高い)
- レベル3(発じん性が比較的低い)
- アスベスト工事の実施に必要な主な資格
- 特定/一般建築物石綿含有建材調査者
- 石綿作業主任者
- オフィス移転時に発生するアスベスト関連の手続き
- 特定粉じん排出等作業実施届出書(大気汚染防止法)
- 建設工事計画届(労働安全衛生法)
- 環境確保条例に基づく届出
- 【2025年〜2026年】最新のアスベスト工事に関する法改正と今後の見通し
- まとめ
アスベストとは?

アスベストとは、天然に産出する繊維状の鉱物です。耐熱性や断熱性、耐久性に優れていることから、かつては建材を中心に幅広く使用されてきました。しかし、その後の研究により、人体への有害性が明らかになりました。
日本では2006年に原則として使用が禁止されています。ただし、それ以前に建設された建物には、アスベストを含む建材が残っている可能性があります。問題となるのは、微細な繊維を吸い込むことで、中皮腫や肺がん、石綿肺などの重篤な疾患を引き起こす点です。発症までに数十年かかるケースもあります。
アスベストは見た目では判断できません。解体や改修工事で建材を壊すと、繊維が飛散しやすくなります。そのため、工事前の適切な調査と管理が重要とされています。
※厚生労働省.「アスベスト全面禁止」.https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/sekimen/hourei/dl/hou07-281c.pdf ,(参照2026-01-29).
オフィス移転時のアスベスト工事の問題
オフィス移転では、原状回復工事や入居前改修工事に伴い、天井や壁、床の解体作業が発生します。特に築年数の古いビルでは、アスベスト含有建材が残っている可能性があります。
事前確認を行わずに工事を進めると、意図せず法令違反につながるリスクがある点に注意が必要です。
事務所内でアスベストが使用されている主な場所
オフィス内では、目に見えない場所にアスベストが使用されているケースがあります。外観だけで安全と判断するのは危険です。
特に注意が必要とされる主な箇所は、次の通りです。
● 鉄骨の耐火被覆材・吸音材(吹付け材)
● 天井裏や内壁、空調経路の周辺
● 天井板、壁材、床材などの成形板
これらは、点検口の内部や空調設備を通じて、微細な繊維が室内に拡散する可能性があります。「見えない=安全」ではありません。自己判断を避け、専門的な調査を行うことが重要です。
工事の際に押さえておきたいアスベストに関する法律
オフィス移転に伴う解体・改修工事では、アスベストに関する法令理解が欠かせません。建築物の工事を行う場合、規模の大小に関わらず事前調査が義務付けられています。
根拠となるのは「大気汚染防止法」と「石綿障害予防規則(石綿則)」です。原則として、調査や対応の義務主体は元請業者とされています。
「知らなかった」では済まされない点が、アスベスト対応の特徴です。オフィス移転工事も例外ではなく、法令を前提に計画を進める必要があります。
※e-Gov法令検索.「大気汚染防止法」.https://laws.e-gov.go.jp/law/343AC0000000097 ,(2025-06-01).
※e-Gov法令検索.「石綿障害予防規則」.https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000100021 ,(2026-01-01).
事前調査と有資格者の義務
アスベスト工事の出発点となるのが、着工前の事前調査です。2023年10月1日以降、この調査は一定の知識や資格を有する者が行うことが義務化されました。
調査は、設計図書などを用いた書面調査と、現地での目視調査の両方を実施します。図面だけで判断せず、実際の建材状況を確認する点が重要です。
必要に応じて、建材の一部を採取するサンプリング分析を行います。有資格者制度は、見落としを防ぎ、調査の質を確保する目的で導入されました。
自社判断や無資格での調査は、法令違反につながる可能性があります。調査段階から専門性が求められる点を理解しておきましょう。
※厚生労働省.「小規模工事等の着工前に必要な手続きについて」.https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/procedures/ ,(参照2026-01-29).
調査結果の報告義務
事前調査を行った後は、調査結果に基づく報告が必要となる場合があります。重要なのは、アスベストの有無に関わらず報告が求められる点です。
報告が必要となる工事規模は、次の基準で定められています。
● 解体工事:解体部分の延べ床面積が80㎡以上
● 改修・補修工事:請負金額が税込100万円以上
報告先は、自治体の保健所などの環境部門と、労働基準監督署です。原則として「石綿事前調査結果報告システム」を用いた電子申請で行います。
調査結果の記録は3年間保存し、工事現場の見やすい場所への掲示も必要です。なお、運用の細部は自治体ごとに差があるため、事前確認が重要になります。
※厚生労働省.「小規模工事等の着工前に必要な手続きについて」.https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/procedures/ ,(参照2026-01-29).
アスベスト工事のレベル分類と作業基準

アスベスト建材は、飛散のしやすさである発じん性に応じて、レベル1から3に分類されています。数字が小さいほど繊維が飛散しやすく、健康被害や法令リスクが高まります。
この分類は、作業方法や管理体制を判断する基準です。オフィス移転時の解体や改修工事でも、必ず確認すべき考え方となります。
レベル1(発じん性が著しく高い)
レベル1は、最も発じん性が高いアスベスト建材に該当します。代表例は、鉄骨の耐火被覆などに使われてきた吹付け石綿です。
吹付け材は繊維が露出しており、わずかな振動や接触でも飛散しやすい特徴があります。そのため、作業時には作業場の隔離や負圧除じん装置の設置など、厳重な飛散防止対策が求められます。
レベル1工事は、高度な知識と経験を持つ専門業者による対応が不可欠です。不適切な施工は、作業員や周辺への健康被害だけではなく、重大な法令違反につながる恐れがあります。
なお、具体的な対策内容は現場条件により異なるため、事前に十分な検討が必要です。
レベル2(発じん性が高い)
レベル2は、レベル1ほどではないものの、高い飛散リスクを持つ建材が該当します。石綿含有の保温材や断熱材、耐火被覆材などが代表例です。
これらの建材は、通常時は形状を保っていても、劣化や解体作業によって崩れると粉じんが発生しやすくなります。特に、破壊を伴う作業では、一気に繊維が拡散する恐れがあります。
作業時には、レベルに応じた飛散防止措置を講じることが不可欠です。解体方法や養生の有無によって、リスクの大きさは大きく変わります。
レベル1と同様に、レベル2も高リスクである点を理解した上で対応することが重要です。
レベル3(発じん性が比較的低い)
レベル3は、発じん性が比較的低いとされるアスベスト建材です。スレート板やビニル床タイルなどの石綿含有成形板が該当します。
これらは建材に石綿が練り込まれているため、原型を保ったまま取り外す場合は飛散しにくいとされています。一方で、切断や破砕を行うと、繊維が飛散するリスクがあります。
レベル3であっても、作業前には作業計画の作成が義務です。原則として湿潤化を行い、手作業で進めることが基本となります。
「比較的低リスク=安全」ではありません。どのレベルでも、適切な管理と専門的な判断が必要です。
アスベスト工事の実施に必要な主な資格
アスベスト関連工事では、調査・管理・作業といった役割ごとに、必要な資格や教育が法令で定められています。これは、工程ごとに求められる専門性が異なるためです。
オフィス移転に伴う解体や改修工事も例外ではありません。発注者側が、工事を担う業者に適切な資格者が配置されているかを確認することが重要です。
※厚生労働省.「小規模工事等の着工前に必要な手続きについて」.https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/procedures/ ,(参照2026-01-29).
特定/一般建築物石綿含有建材調査者
建築物石綿含有建材調査者は、工事前に行うアスベスト事前調査を担う専門資格です。
建築物にアスベスト含有建材があるかを確認する役割を持ちます。
調査では、設計図書などによる書面調査と、現地での目視調査を組み合わせて実施します。
状況に応じて、分析調査を行うこともあります。
法改正により、現在は有資格者による事前調査が義務です。「特定」と「一般」の違いは、調査対象となる建築物の規模によって区分されています。
調査結果は、その後の届出や工事方法の判断に直結します。調査の質を確保するために設けられた制度である点を理解しておくことが重要です。
石綿作業主任者
石綿作業主任者は、アスベストを扱う現場で選任が義務付けられている国家資格です。主な役割は、作業員の指揮監督や作業手順の管理にあります。
具体的には、飛散防止措置が適切に実施されているかを確認します。防護服や呼吸用保護具の使用状況を点検することも重要な業務です。
作業主任者が求められる理由は、現場全体の安全を一元的に管理するためです。個々の作業員任せでは、リスク管理が不十分になる恐れがあります。
なお、作業主任者は作業を直接行う資格ではありません。管理と監督を通じて、安全な作業環境を維持する立場です。
オフィス移転時に発生するアスベスト関連の手続き
アスベスト除去を伴う工事では、着工前に複数の届出が必要です。原則として、いずれの手続きも「着工14日前まで」に行う必要があります。
手続きが漏れると、工事の中断や行政指導につながる可能性があります。
特定粉じん排出等作業実施届出書(大気汚染防止法)
特定粉じん排出等作業実施届出書は、大気汚染防止法に基づく代表的な届出です。対象となるのは、レベル1またはレベル2に該当するアスベスト除去作業です。
提出先は、工事を行う地域を管轄する自治体の環境担当部署となります。原則として、工事着工の14日前までに提出しなければなりません。
届出書には、工事の概要や除去方法、飛散防止措置などを記載します。内容を基に、自治体が環境への影響を確認する仕組みです。
なお、除去を伴わない工事は対象外となる場合があります。また届出様式は自治体ごとに異なることがあるため、事前確認が必要です。
※e-Gov法令検索.「大気汚染防止法」.https://laws.e-gov.go.jp/law/343AC0000000097 ,(2025-06-01).
建設工事計画届(労働安全衛生法)
建設工事計画届は、労働者の安全確保を目的とした制度です。こちらも、レベル1またはレベル2のアスベスト除去作業が対象となります。提出義務者は施工業者で、労働基準監督署へ届け出ます。
作業方法や安全対策を事前に示し、作業環境の安全性を確保します。この届出は、大気汚染防止法の届出とは目的と提出先が異なります。実務では、両方の届出を並行して行うケースが少なくありません。
提出は施工業者が行いますが、発注者も内容を把握しておくことが重要です。計画内容の理解が、適切な工事管理につながります。
※e-Gov法令検索.「労働安全衛生法」.https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057 ,(2026-01-01).
環境確保条例に基づく届出
国の法律に加え、自治体独自の条例に基づく届出が求められる場合があります。環境確保条例などにより、追加の手続きが定められているケースです。
例えば、工事計画の詳細提出や、アスベスト濃度測定を義務付ける例があります。対象や内容は自治体ごとに異なるため、個別確認が欠かせません。
これらの届出では、義務者が発注者や自主施工者とされる場合があります。そのため、事務所移転を行う企業側も責任主体となり得ます。
業者任せにせず、発注者自身が制度を理解することが重要です。自治体への確認を怠らない姿勢が、トラブル防止につながります。
※東京都.「《大気汚染防止法・環境確保条例》特定粉じん排出等作業(アスベスト)に係る届出等」.https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/application/bunya/air/asbestos_demolish_notification ,(2023-11-29).
【2025年〜2026年】最新のアスベスト工事に関する法改正と今後の見通し
アスベスト規制は近年、段階的に強化されています。その背景には、調査漏れや不適切な工事による健康被害を防ぐ狙いがあります。
2023年10月の改正では、建築物の解体・改修工事において、有資格者による事前調査が義務化されました。これにより、経験や知識にばらつきのある調査を防ぎ、制度としての信頼性が高められています。
さらに2025年に向けては、調査者資格の要件追加や、試験制度の見直しなどが検討されています。調査の質をより高い水準で維持する方向性といえるでしょう。
2026年1月以降は、建築設備やプラント、トンネルなどの工作物についても、有資格者による事前調査が完全に義務化される見通しです。これまで対象外と捉えられがちだった小規模な設備改修も、管理対象となる可能性があります。
オフィス移転や設備更新を検討する際は、こうした法改正を前提に計画を立てることが重要です。早い段階で最新の制度動向を確認する姿勢が求められます。
※厚生労働省.「改正ポイント」.https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/point/ ,(参照2026-01-29).
まとめ
オフィス移転や事務所移転は、建物の安全性や管理体制を見直す重要な機会でもあります。
アスベスト対応を軽視すると、行政指導や工事停止、場合によっては刑事罰につながる恐れがあります。企業の社会的信用や、将来的な損害賠償リスクにも影響しかねません。
そのため、事前調査、資格者の配置、必要な届出、法令遵守を一体として捉えることが重要です。どれか一つでも欠けると、適切な対応とはいえません。
移転計画の初期段階からアスベスト調査を組み込むことで、工程の見通しが立ちやすくなります。結果として、不要なトラブルや工期遅延を防ぐことにもつながります。
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