オフィス移転によるブランディング効果とは? 取り組みの種類や成功のポイントも解説
オフィス移転をきっかけに、自社のブランド価値を高めたいと考える企業が増えています。働き方改革や採用競争の激化、企業カルチャーの発信といった流れの中で「オフィスを変えること」がブランド戦略の一部として注目されているのです。
しかし、具体的にどのようなポイントを視野に入れて取り組めばよいのか分からず、お困りの担当者もいらっしゃるでしょう。
そこで本記事では、オフィスブランディングが注目される理由から、ブランディングの種類、成功させるための具体的なポイントまでを解説します。オフィス移転によるブランディング効果を高めたいとお考えの方は、ぜひ参考になさってください。
目次
オフィスブランディングとは? 注目される理由

近年、企業を取り巻く競争環境が急速に変化し、オフィスは単なる働く場所ではなく、ブランドを体現する戦略的な空間として注目されています。働き方の多様化や人材獲得競争の激化を背景に、企業文化や価値観を「空間で表現する」取り組みが求められているのです。
またオフィスブランディングは経営戦略や人材戦略と密接に関わり、社員の満足度向上や採用強化、外部へのイメージ発信など多面的な効果を発揮します。「オフィスはコストではなく投資」という考え方のもと、空間づくりを通じて企業の未来像を描く動きが広がっています。
ここからは、オフィスブランディングが注目される理由を見ていきましょう。
働き方の変化に対応するため
近年、テレワークやハイブリッドワークの普及により、オフィスの役割は「作業の場」から「人が集う場」へと変化しています。出社する理由が問われる今、オフィスは単に業務を行うスペースではなく、交流・創造・文化形成の拠点としての価値を求められています。
企業にとっては、働き方の多様化に対応しながらも、社員の一体感やエンゲージメントを維持するための「場づくり」が欠かせません。その中心にあるのがオフィスブランディングです。理念を体現した空間を整えることで、社員が「自分の働く意味」を再確認できるようになり、出社が前向きな体験へと変わります。
こうした背景から、オフィスはコストではなく投資として見直され、経営戦略の一部として注目を集めているのです。
社員の満足度を向上させるため
オフィスブランディングの核となるのが、社員一人ひとりが快適に働ける「社員体験(Employee Experience)」の向上です。
照明や空調、家具の配置、導線設計など、物理的な快適性はもちろん、心理的安全性を確保する設計も重要です。自然光が差し込む明るい空間や、集中・休憩・交流のバランスが取れたゾーニングは、社員の満足度を大きく左右します。
また社員が自分の意見を反映できるオフィスづくりは、企業に対する愛着やロイヤリティの向上にもつながります。こうした働きやすさを追求した環境は、単なる福利厚生にとどまらず、ブランド価値の一部として社内外に発信できる要素です。
オフィスという空間を通して「この会社では心地よく働ける」と感じられる体験を提供することが、ブランディング成功の第一歩となります。
創造性とコラボレーションを促すため
オフィスは、人と人が出会い、アイデアを生み出す場でもあります。部署や職種を超えた偶発的なコミュニケーションが生まれる空間設計は、組織全体の創造性を高める上で欠かせません。
例えば、カフェスペースや共有ラウンジ、立ち話ができる打ち合わせエリアなど、社員同士の自然な交流を促す仕組みを取り入れると効果的です。こうした環境は、組織の壁を低くし、チームの一体感を育むきっかけにもなります。
またブランドコンセプトを反映したインテリアやカラーリングを用いれば、会話や発想が企業理念とつながる文化的な一貫性も生まれます。コミュニケーションの活性化は、生産性やイノベーション創出に直結する要素であり、オフィスを通じて企業の創造力を発信することが現代のブランディングといえるでしょう。
企業理念を浸透させるため
オフィスブランディングの最終目的は、企業の理念やビジョンを言葉ではなく空間で伝えることにあります。例えば、企業のロゴカラーを基調とした内装や、理念を掲げたウォールアート、シンボリックなオブジェなどは、社員と来訪者の双方に強い印象を与えます。
日常の中で理念を目にし、触れる機会が増えるほど、企業の価値観は自然と社員に浸透していきます。また理念を空間化することで、採用候補者や顧客にも「この会社は何を大切にしているのか」を直感的に伝えられるのも大きな利点です。
オフィスブランディングの3つの種類
オフィスブランディングには、大きく分けて「インナーブランディング」「アウターブランディング」「採用ブランディング」の3つがあります。それぞれの対象は異なりますが、いずれも企業のブランド価値を高めるための重要な要素です。
以下でそれぞれの特徴を詳しく解説していきます。
インナーブランディング(社員向け)
インナーブランディングとは、企業の理念やビジョン、価値観を社員に浸透させ、共感と一体感を育むための取り組みです。社員が企業の方向性を理解し、自らの仕事に誇りを持つことで、組織全体のパフォーマンスが向上します。
期待できる効果としては、従業員エンゲージメントの向上、社員定着率の改善、チームワークの強化などが挙げられます。オフィス空間に企業理念を体現するシンボルやコーポレートカラーを取り入れれば、社員が日常的に企業の価値観に触れられる環境を作ることが可能です。
例えば、壁面などに理念を掲げて共有するスペースを設けることで、企業文化を目に見える形で感じられるようになります。また経営層が空間を活用して理念を語り、社員と直接対話することも効果的です。インナーブランディングは押しつけではなく、共感を育むための長期的な投資といえるでしょう。
アウターブランディング(社外向け)
アウターブランディングとは、顧客・株主・取引先・地域社会など、社外に向けて企業の理念や価値を発信する取り組みを指します。企業の信頼性や透明性を高め、競合他社との差別化を図る上で欠かせない施策です。
企業の入り口や受付、会議室などは、来訪者が最初に目にする企業の顔です。例えば、ショールーム型のオフィスや、企業の製品・サービスを体験できるスペースを設けることで、企業のストーリーをよりリアルに伝えられます。
またサステナビリティや社会貢献を意識した設計(自然素材の使用、省エネ設備の導入など)は、企業の価値観を象徴する要素となります。こうした空間づくりによって、社外の人々が企業の理念や姿勢に共感し、信頼関係を築くことが可能です。
オフィスは、単なる業務拠点ではなく、企業ブランドを体感してもらう重要な発信拠点といえます。
採用ブランディング(学生・求職者向け)
採用ブランディングとは、自社の理念や文化、働く環境について発信し、共感した人材を引き付ける取り組みを指します。求職者や学生にとって、オフィスは働くイメージを具体的に感じ取る場であり、訪問時の印象が応募意欲に大きく影響します。
オフィスデザインに企業の方向性や働き方を反映させることで「この会社で働いてみたい」という共感を生めるでしょう。
例えば、オープンな打ち合わせスペースやフリーアドレス制を導入することで、柔軟な働き方や自由な発想を体現できます。また社員インタビューやオフィスツアー、採用動画などを活用し、リアルな職場環境を見せることも効果的です。
価値観の多様化が進む現代では、単に「かっこいいオフィス」ではなく、働き続けたいと思える空間が求められています。採用ブランディングを通じて、自社の理念と共感する人材を呼び込み、入社後の定着や成長を促すことが、企業の持続的発展につながるのです。
オフィスブランディングを成功させる7つのポイント

オフィスブランディングを成功させるには、デザインだけではなく働き方の確立やデザインの考案、立地の選定など複数の要素を統合的に考えることが欠かせません。単なるオフィスのリニューアルではなく、企業の価値観を「空間を通じて伝える」戦略として位置づけることが重要です。
ここからは、オフィスブランディングを成功させるための7つのポイントを紹介します。
長期的に取り組む
オフィスブランディングは短期間で成果が出る取り組みではありません。理念の浸透や社員意識の変化には時間を要し、効果が現れるまでに3年以上かかるケースも多くあります。そのため、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を繰り返しながら、継続的に改善していく姿勢が欠かせません。
例えば、定期的な社員アンケートやオフィス利用率の分析を行い、課題を明確にして次の改善へつなげることが有効です。また経営層と現場の双方が「オフィスを育てる」という共通認識を持つことも大切です。
リニューアルして終わりではなく、文化を根づかせるために時間をかけて育てていく姿勢が、オフィスブランディングのあり方といえるでしょう。変化し続ける働き方や価値観に合わせて、柔軟に見直す視点を持つことも大切です。
従業員の働き方を明確にする
オフィスブランディングを進める前に、まず自社の「働き方」を明確に定義することが重要です。テレワーク中心か、出社を重視するか、あるいはその両方を組み合わせるハイブリッド型かによって、適したオフィス設計は異なります。
また業務内容に応じて「集中スペース」「交流エリア」「アイデア創出の場」などをゾーニングし、社員が目的に応じて使い分けられる空間にすると効果的です。
こうした設計は、社員の働きやすさや生産性を高めるだけではなく、企業の価値観やブランドの方向性を体現する手段にもなります。例えば、ABW(Activity Based Working)を導入すれば、柔軟で自律的な働き方を象徴できます。
働き方の明確化は「どのような企業でありたいか」を示すことにも直結します。社員の声を反映しながら設計方針を固めることで、ブランディングの一貫性が保たれるでしょう。
企業に合ったオフィスデザインにする
オフィスデザインは、企業理念やビジョンを体現するブランドの器といえる存在です。デザインを検討する際は、まず「自社がどのような企業でありたいか」「どのような価値を社会に届けたいか」を明確にすることが出発点となります。
その上で、内装・素材・カラー・照明などを通じて、理念やストーリーを視覚的に表現します。例えば、信頼性を重視する士業では落ち着いたトーンの空間が好まれ、クリエイティブ業では明るく開放的なデザインが親和性を高めます。
またエントランスや会議室にはコーポレートカラーやロゴを取り入れ、ブランドの一貫性を持たせることも大切です。見た目が美しいだけではなく、意味のあるデザインを意識することで、社員にも来訪者にも共感される空間が生まれます。
立地とビルのグレードは慎重に選ぶ
オフィスの立地やビルのグレードは、企業のブランドイメージや信頼性に直結します。例えば、銀座や丸の内などは高級感や安定感を印象づけ、渋谷や恵比寿は創造性や柔軟さを感じさせる傾向があります。
ただし「高級エリア=良い」というわけではなく、自社の事業特性や顧客層に合ったエリアを選ぶことが大切です。また交通アクセスの良さや周辺環境の快適さは、社員のモチベーションや生産性にも大きく影響します。
ビルのグレードや共用設備の充実度は、来訪者の第一印象を左右する要素でもあります。オフィス移転の際は「立地=ブランド戦略の一部」と捉え、会社の理念や成長フェーズに合った場所を選定するようにしましょう。
自社にとって最もふさわしい拠点を見極めることが、信頼される企業像の構築につながります。
設備・景色・騒音などを考慮する
オフィスの快適性は、社員の働きやすさだけではなく、企業ブランドの印象にも大きく関わります。空調や照明、設備の管理状態、共用スペースの充実度などは、日々の業務効率や心理的な満足度を左右する要素です。
また窓からの景色や自然光の入り方は、社員のモチベーションやリフレッシュ効果を高め、創造性にも良い影響を与えます。一方で、交通量の多い通りや工事が頻発するエリアでは騒音や振動がストレスとなり、集中力の低下や疲労感を招くこともあります。
そのため、内覧時には周囲の静音性や採光、設備の稼働音など、五感で感じ取れる快適さを確認することが大切です。こうした環境の質は、企業が細部までこだわる姿勢として外部から評価されるポイントにもなります。
最近では、遮音ガラスや空気清浄システムを導入し、ウェルビーイング(well-being)を意識したオフィスづくりを行う企業も増えています。目に見えない快適さこそ、ブランドの信頼を支える要素といえるでしょう。
客観的な視点を取り入れる
オフィスブランディングの成果を高めるには、主観的な感覚だけで判断せず、客観的なデータや外部の意見を取り入れることが欠かせません。改装やデザインにはコストが伴うため、施策の効果を定期的に検証し、改善へとつなげる仕組みを整えることが重要です。
社員アンケートやヒアリングを実施して満足度や課題を可視化すれば、実際にどの施策が価値を生んでいるかを把握できます。また専門のデザイン会社やブランディングコンサルタントの意見を取り入れることで、第三者の視点から自社の課題を客観的に分析できます。
評価指標(KPI)としては「社員満足度」「来訪者評価」「採用応募数」「SNSでの反応」など、定量・定性の両面から測定するのが効果的です。こうした評価を継続的に行うことで、ブランドメッセージが社内外に適切に届いているかを検証できます。
結果を単に良し悪しで判断するのではなく「なぜそうなったか」「どう改善するか」を考え、常に成長し続けるブランド運用を目指すことが大切です。
まとめ
オフィスブランディングは、企業の理念やビジョンを空間として具現化し、社員・顧客・求職者の全てに「企業らしさ」を伝える重要な取り組みです。デザインや立地だけではなく、働き方・設備・環境整備など、複数の要素を一貫したメッセージで統合することで、長期的なブランド価値を高められます。
またオフィス移転はブランディングを見直す絶好のタイミングです。新しい拠点づくりを通して、自社の理念を再確認し、社員が誇りを持てる空間を整えることで、企業文化の浸透と成長を同時に実現できます。
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